流れ星か、路傍の石か、無数の「かもめ」たちへの賛歌──珠玉の自転車漫画『かもめ☆チャンス』の感想と評価──

かもめ☆チャンス

今日はいつもとまた趣向を変えまして、はじめての『漫画』の紹介になります。

今回紹介するのはこちら『かもめ☆チャンス』自転車漫画です。

自転車漫画って言うとどうしても「弱虫ペダル」が有名ですよね。

この漫画は知ってる人は知ってるけど~みたいな作品になっちゃいます。

小生的にはこれが今まで読んだ自転車漫画の中では一番なんですが……

皆さん読んだことありますかね……?

あらすじ

冴えない信金マンの「更科二郎」妻は数年前に失踪し、男手一つで娘の「ふくの」の育児に、仕事に、使えない部下の小菅の教育に、と奔走する日々を過ごしていた。

そんな中で彼はひょんなことから100万円オーバーのロードバイク「GIANT TCR 100」をぶっ壊し、そのオーナーであった半田からの示談の条件として、半田の『替え玉』として「乗鞍ヒルクライム」に参戦させられることになってしまう。更科の運命や如何に──!?

『オメガトライブ』の玉井雪雄が描く人生再生ロードバイクストーリー!

感想

面白い、この一言に尽きます。

物語がもっとその先へ行きそうなところでの打ちきり(とも、作者の玉井さんがアームストロングのドーピングの一件で情熱をなくしたからとも言われています、真相は定かではない)になってしまったので、そこは残念ではありますが、完成度は非常に高いです。

作者さんとアシスタントさんたちも実際にロードに乗っているからこその表現、実際のレースの様子に裏付けられたレースの描写と解説は「ロードレース観戦の基礎」と言っても過言ではありません。

アシスト、逃げ、エースの役割、何故トレインを組むのか、等々……自転車競技を本格的に観戦する前の段階で読んでみるのもいいかもしれませんね。

この点がどうしても「弱虫ペダル」には欠けてるのでは……と思う部分です。

熱さは大好きですが、アブアブ君をわざわざちょっとした平地を牽かせるために連れてはいかないと、グルペットで登ってこいと、そういう訳です。もしかして:登れるスプリンター

かもめ☆チャンスはその辺しっかりしてます、総合リーダーとして走りつつも周りに消耗させられ、最終的につきぎれした桜島はキャプテンだろうが、わざわざアシストを使ってプロトンに復帰させたりしない……逃げにも乗れば潰しにもいく、よく言えばリアル、悪く言えば夢がない。青年誌なので……。

更科ァ! 桜島、連れて帰ってこれるな?

うおぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!(鬼牽き)

アイツは必ず桜島を連れて帰ってくるって言ったッショ! 

かもめのジョナサンとの関係、烏合の衆への讃歌

この漫画のタイトルは「かもめ☆チャンス」しかしこれだけだとよく分からん、何故「かもめ」なのか、その答えが「かもめのジョナサン」です。

小生も漫画読んでからこれ読んで理解しました。

ガバガバですが、あらすじ的にはただ「速く」飛ぼうとするかもめの「ジョナサン」とそれ以外の「パンのために=生きるために」飛ぶかもめたちの話を軸に展開し、そのうちジョナサンが音速で飛んだり、神格化されて崇め奉られたりするお話です。

この「かもめ」は劇中で何度も繰り返されて用いられます。

ちょっと「アレ」な更科の娘が繰り返す「パパはかもめゾ!」と、いう言葉。

序盤では「烏合の衆」の象徴でしたが、次第に意味が変わっていきます。

乗鞍では先頭を飛ぶ「ジョナサン」の喩えに使われ、そうと思えば「パンのために」飛ぶかもめ(=生きるために必死になる更科を含む人々)への讃歌としても用いられます。

乗鞍で更科とあいまみえた桜島はこう言います。

相手にもっと敬意を払え」と、そうです。

この「かもめ☆チャンス」という漫画は先頭を飛ぶジョナサンだけでなく、「その他大勢」のかもめ、先頭を飛ばず、パンのために生きる人々=小生だってそうですが、我々皆までを祝福するためにこの「かもめ」をタイトルに入れているのです。

ハイロウズ「14歳」との関係

この漫画は「かもめのジョナサン」をモチーフにしていますが、さらにこの「かもめのジョナサン」をイメージしたハイロウズの楽曲「14歳」もモチーフにしております(ややこしい)。

この曲、独特のリズムと歌いかたなので最初は、ん?ってなりますが、繰り返し聴いていると名曲だなぁ……ということに気づかされます。

この漫画との関連で言うと、サビの部分の歌詞、リアルよりリアリティー♪と繰り返される部分がそうでしょう。

日々信金マン且つシングルファーザーとして冴えない日々を送る更科にとってはそんな「リアル」よりも、ロードバイクに乗っている間の僅かながらの解放感、疾走感、充実感の方がよっぽど「リアリティー」のあるものだった。

だからこそ、更科はリアルを犠牲にしかねない勢いで並走するリアリティーの世界にのめり込んでいったわけです。

その他の登場人物、例えば更科の部下でチーム「BLUE SEAGULL」のエースである小菅にとっての「リアリティー」としての社会において、彼は不適合者です。

が、ひとたび彼にとっての「リアル」=サドルの上に舞い戻れば、そこは彼にとって必要にして十分なタイヤと道路の接地面、「指一本分の社会」が発生します。

桜島一郎は家族とのしがらみ、葛藤のある社会=リアリティーを捨て、自分にとって最もセルフィッシュでいられる場所としてロードバイクに乗り、梶プロは糖尿病でシャントをつながなければ維持できない自分の身体という「リアル」に向き合うため、「リアリティー」としてのロードレースに全身全霊を注ぎます。

このようにそれぞれの登場人物が「リアル」「リアリティー」とそれぞれの日常とロードレースを対置させながらツールド北海道までのレースを駆け抜けていくことに魅力を感じるのです。

小生がこの漫画を最初に読んだのは「おかーさーん! ロードバイク買うから、場所ちょーだーい!」ってごねてた頃で、そりゃー感心しましたよ、ロードバイクってすごい! って、これなら人生変えられる、一発逆転、一転攻勢や!! なんてね、まぁ現実は甘くないんですが……

キャラクターが「やばい」

前作である「オメガトライブ/オメガトライブキングダム」は相当「キテる」漫画でした。登場キャラクターの頭がおかしい。

スターシステムとして一部のキャラクターが続投していますが、やっぱり「やばい」どいつもこいつも頭がおかしい。特に梶プロ、もう大好き。

プリッの「プ」で反応出来ないと勝負できないらしい
返事はすべからく押忍にすべし!
よいこのみんなはアタックには0.000001秒で反応しよう

3ページ貼っただけでもう面白いのが分かりますね、最高ですよこの漫画。

特にこの「梶プロ」が最高です。

ヘルメットにはデカデカと「馬鹿でありがとう」の文字、極東輪輪倶楽部の面々を率いての龍神合宿、レースと大活躍です。

アホそうに見えてはいるものの、実力は一流、類まれなる負けん気とレース勘、頭脳プレーと三拍子揃った名選手です。

まとめ、みんなで読もう!

打ち切りになってしまったのが残念でなりませんが、間違いなく最高の自転車漫画だと言えます。みんなで読もう!

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