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「オクトローグ──酉島伝法作品集成──」新時代の奇才が描く「独創性しか感じられない」SF

しばらくぶりに読書のお話です。

今回の読書~ウェブ・サブカルのディストピア、身体からの解放、死という現実~

今回読んだのは酉島伝法「オクトローグ~酉島伝法作品集成~」です。

独創性を発揮するのが難しい現代において独創性しかない稀有な作家

酉島伝法さんの作品はとにかく独創性がすさまじいので、SFオタクならみんな読め、って感じです。

現代は独創性を発揮するのが難しい時代です。ここまでに出てきた作品が沢山あるため、どうしても類似点をあげつらわれてしまうことが多く、小説家、漫画家の皆さんは肩身の狭い思いをしてらっしゃることでしょう。勿論中には「にんじんしりしり」レベルのお粗末なつくりのヤツもありますが(笑)

そんな中で、最早真似したとかしてないとかの問題じゃないレベルでの想像力を発揮しているのがこの人って感じでめちゃおススメです。

各作品の解説と感想

読書の興を削いではいけないので、軽めにね。

環刑錮

「環刑錮」の受刑者の姿を描いた一作、カフカの「変身」的なモノだと思って読み始めると後悔するおぞましさ。

酉島さんらしい造語と不気味さ、生理的な嫌悪感をガッツリ閉じ込めた作品、これを巻頭に持ってきたあたりは流石といったところ。慣れていないとやや読みにくいかもしれないが、そのうち皮膚感覚に染みてくるのでご心配なく。

金星の蟲

最初の環刑錮とは打って変わって、お仕事小説感を醸し出す一作、徐々に日常が侵食され、ズレていく感じが秀逸

一般の小説っぽい出だしから意味の分からないことになっていくのはSFの定石ではあるものの、変化した世界は完全に酉島さんのものであるから、嫌になる(誉めてます)。最初に読むのに良さそう。

痕の祀り

こちらもお仕事小説感のある作品、メカ好きの小生にはたまらない一作でした。

読んでいけば分かりますが、基本的には「ウルトラマン」を下敷きにしています。アンソロジーに寄稿された作品にも関わらず、元の世界観からの「ズラし」の上手さに舌を巻くこと間違いなしです。

堕天の塔

ここまでの作品の独特の雰囲気からガラリと作風が変わるため、結構驚きのある一作です。

コチラは弐瓶勉さんの傑作SF「BLAME」のアンソロジーに寄稿されたものです。

コチラは元の作品の雰囲気をしっかり保ったままの展開、良くも悪くも灰汁の強い作風同士が混ざるとどうなるのかハラハラしますが、キチンとツボを押さえているので安心。こういうことも出来るのか! と引き出しの多さが窺えます。

ブロッコリー神殿

異星の生態系を「内側から」描き出した一作、奇怪な植物、生命たちの描写が光る

SF傑作選シリーズの「行き先は特異点(単行本所有)」で読んでましたが「オクトローグ」には挿絵がしっかり入っていたのでそれが見どころでした。こちらも「らしさ」が光る作品です。

彗星狩り

異星の生命体の冒険小説、といった趣の作品、異星の行事のワンシーンを描く「異文化SF」みたいな感じです

ここまでの狂瀾怒濤の魑魅魍魎が跋扈する酉島ワールドから少し離れ、挿絵もどこか「犬」めいた感じで親しみやすいキャラクターの心身の成長が微笑ましい作品

意識体となってしまった人間たちが粗悪品の「入れ物」に入って人間らしさを取り戻すまでの流れを描いた作品

人間らしさを取り戻すきっかけが「言葉」なのがたまらない。日頃何気なく使っている言葉の重みを再確認する契機となるかも、小生はここから内定者課題のヒントを得ました。

クリプトプラズム

本書のための書下ろし作品、DNAを含んだ「オーロラ」的なサムシングの研究がどこにも着地しない感じになります

まじりけや謎の漢字で出来た造語がない「純」SFが読みたければこれが良いかもしれません。アイデンティティーに対するバランス感覚に関してはやはり酉島さんならではのテーマ。

早川書房さんへ「幻視百景」の単行本化待ってます!

いつも「SFマガジン」を読むときは楽しみにしている「幻視百景」ですが、まだ単行本出てない……

同じくSFマガジンで連載されている宮崎夏次系さんの「と、ある日のすごくふしぎ」は単行本出たのに……

早川書房さん! 単行本化待ってますからね~!

と、いうわけで「オクトローグ」の紹介でした。

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