──英雄の誕生とは、兵站の失敗に過ぎない──林譲治「星系出雲の兵站1」の感想

──英雄の誕生とは、兵站の失敗に過ぎない──林譲治「星系出雲の兵站1」の感想

どうも、せんちゃんです。

卒論はやる気ないのに、この頃本ばかり読んでいます。

その中から今回は一冊、特に面白かったヤツをご紹介します。

林譲治「星系出雲の兵站」です。

星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)

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(2020/8/13 12:02時点)

「SFマガジン」で書評を見て以来「読もう読もう」と思っていて、いつも借りられてしまっていたのをようやく見つけて読めました。

リアル・ミリタリーSFの傑作になりそうな作品です。2巻以降はこれから読むのでまだ判断がつきませんが……

あらすじ

いずれ起こる異星人の侵略を恐れ、播種船によって外宇宙へと植民を行った人類は二千年の時を経て星系「出雲」を中心とする五星系文明「人類コンソーシアム」を構築していた。

しかし、当初の目的であった「異星人の侵略に対抗する」ということに関しては、異星人の存在自体に対しての懐疑が人々の間に広がっていた……。

そんな中、五星系のうち、主星系である「出雲」に次ぐ発展を誇る「壱岐」の外縁の軍管区にて、奇妙な衛星が発見される。

その衛星は人類の情報を受送信していたが、その形態が奇妙極まりないのだ。主成分は鉄、巨大な真空管とも言うべき構造──人類コンソーシアム以外の何者かによって作られた衛星に異星人の恐怖が蘇ってくる──

異星人「ガイナス」と星系出雲の人類の「戦争」が幕を開ける──

政治劇と「兵站」メインのスタイル

あらすじで紹介したように、基本は異星人との戦争を描いたミリタリーものですが、この作品は切り口が新しい。「兵站」をメインに据えている点だ。

「兵站」とは──

戦場で後方に位置して、前線の部隊のために、軍需品・食糧・馬などの供給・補充や、後方連絡線の確保などを任務とする機関。その任務。

というわけで、実際の戦場におけるもっとも重要な部分にフォーカスしての戦争が展開していくわけである。

だから小生が大好きなロボットアニメの類のように、猛烈に強い機体とエースがいて、単独、無補給で敵をバッタバッタと薙ぎ倒していくようなことは無い。

この作品にもAS(ArmoredSoldier)という人型機動兵器が登場するが(準惑星天涯での地上戦の描写に注目だ)無敵の兵器ではない、データリンクと火砲の支援、および換装用の兵装と弾薬が無ければ満足に戦えない、そんな兵器だ。

艦艇にしてもそうだ、何十という敵を相手にして、単艦で吶喊して勝てるような代物ではない。小生もマイクル・P・キュービー=マクダウエルの「トライアッド」に出てくるみたいな圧倒的な力を持った戦艦が好きだが、この作品では違う。戦術と兵站があってこその兵器なのだ。

この作品の魅力はそんな純然たる「戦術兵器」を人間がどう用いるか、そしてその戦線をどう支えるのか、といった兵站に惑星の主権などが絡んだ政治劇の輻湊である。

戦闘シーンは敵の威容もあって手に汗握る迫真の描写だ。近代戦の基本である「情報戦」の概念も存分に表れてくる。しかし、基本は政治劇と兵站メインで進行するため、人によっては単調に感じるかもしれない。ロボットアニメに例えるなら「ガサラキ」がダメ、という人にはキツイだろう。そんな作品だ。

ガサラキの感想→https://overwhelming-growth.com/post-2894

リアルな兵器と戦術の描写に唸る

さて、兵器の描写について「戦術兵器」の運用と述べたが、ここが見どころである。人類と異星人「ガイナス」の技術水準は拮抗している。では、どこが勝負を決めるカギとなるのか、それが「戦術」である。

探査衛星、ドローン、その他計測機器から得られた情報をもとに戦術を立て、実行する、そのプロセスが面白い。

特に、劇中で最も多用される運動エネルギー兵器「A-mine」が気に入った。電磁カタパルトより射出され、目標の手前で爆裂するまでは事前に設定されたコマンドを実行するだけの自律型兵器である。

単純だが、それゆえに運用の方法は複雑、使い方次第ででくの坊にも破壊兵器にもなれる。扱う指揮官の技量が問われる部分だ。

また、SF的なガジェットとして用いられる光速航行システムAFDも食わせものだ。近距離の運用には向かず、ある程度の距離を必要とする不完全さが作劇に幅を生んでいる。

ただ、イマイチなのが……

言語が統一されていないことにとてつもない違和感を感じる。

播種から数千年が経って、人類の言語体系が混じった、と言うのは分かるのだが、少々節操がなさすぎる。基本的に惑星の名前は日本風だが、艦艇の名前は多言語が入り混じっている。そして極めつけが人名である。

もんのすごいふじびたい

タオ迫水とか、ブレンダ霧島とか、シャロン紫壇とか、「ガムリン木崎」みたいなのがいっぱいいるのがまず覚えにくくて、誰が誰だったかが分からなくなる。それでいて軍隊側の主要人物は普通に日本名、正直イライラする。

それから、登場人物が揃いも揃って有能すぎるのも頂けない。確かに登場しているのが一部のエリート層だと言うことはあっても、出来過ぎている。ストーリー進行のために動く生硬さが拭い去れない。

さらに、有事のセリフがカッコいいのに対して、プライベートになると一変してライトノベルのようなチープな皮肉が飛び交う点にも違和感、ハードSFに寄り過ぎない、と言う点ではいいのかもしれないが、少なくとも小生の中ではイメージの乖離が大きかった。

なんだかんだ続きが気になる秀作

本当は異星人の正体についてももう少しごねたいところではあったが、総評として、この作品は「秀作」である(現時点では)。

今までにない視点から「ミリタリーSF」を解釈したものとして斬新であり、且つ面白い。続きが気になって仕方がない、と言うのが本音だ。

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